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台湾有事なら推計コスト1440兆円、世界経済に重大リスク-13日総統選 - ブルームバーグ

台湾有事が発生すれば、人命や資産の犠牲は甚大だ。このため、現状に最も強い不満を抱く向きでも、有事リスクを冒しにくい理由がある。ブルームバーグ・エコノミクスの推計では、台湾有事コストは約10兆ドル(約1440兆円)に上り、世界の国内総生産(GDP)のほぼ10%に相当する。ウクライナでの戦争や新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)、世界金融危機による打撃など比べものにならない。

  中国の経済的・軍事的影響力の増大や台湾の国民意識の高まり、そして米中関係の緊張は、危機の条件が整っていることを意味している。13日投票の台湾総統選は両岸関係が焦点となる中で潜在的な火種となる。

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米中首脳会談後に習近平国家主席を見送るバイデン大統領(2023年11月15日)

Photographer: Li Xueren/Xinhua/Getty Images

  中国の台湾侵攻が差し迫っている可能性が高いと考える人はほとんどいない。人民解放軍が沿岸に部隊を集結させているわけではなく、中国軍の汚職に関する報道は作戦を成功させる習近平指導部の能力に疑問を投げかける。米当局者らも昨年11月の米中首脳会談で緊張が多少緩和されたとの見方を示す。習主席は訪米中に外国人投資家を呼び込む「暖心(心温まる)」措置を約束した。

  それでも、ウクライナやガザでの戦争は、くすぶり続けていた緊張が紛争にどう発展し得るかを再認識させた。ウォール街の投資家から軍関係者、台湾の半導体に依存する多くの企業に至るまで、誰もがリスクヘッジに動きつつある。

  米国防総省の国家安全保障専門家や日米のシンクタンク、世界的なコンサルティング会社は、中国による台湾の海上「隔離」から台湾離島の占領、中国の全面侵攻に至るまでシナリオを練り上げている。

The Global Risk of a Taiwan War

Model estimates show a Taiwan war could have a bigger impact on global GDP than other recent shocks

Sources: Bloomberg Economics, IMF

  米戦略国際問題研究所(CSIS)の中国専門家、 ジュード・ブランシェット氏はロシアによる2022年のウクライナ侵攻以降、同氏が助言する多国籍企業の台湾危機に対する関心は「爆発的に高まった」と明かす。会話の95%で同テーマが出てくるという。

  ロシアによるウクライナ侵攻や、コロナ後の経済活動再開に伴う半導体不足を通じ、世界経済が抱える潜在的な問題を垣間見ることができた。台湾海峡で戦争が起きれば、はるかに影響は大きくなるだろう。

Chips Are Up

TSMC’s top 20 customers by market capitalization

Source: Bloomberg Economics

  台湾は世界の先端ロジック半導体の大半を製造し、前世代のチップも多数生産している。世界的には、付加価値全体の5.6%が直接投入物として半導体を使用するセクターから生み出され、6兆ドル近くに上る。また、半導体受託生産大手、台湾積体電路製造( TSMC)の顧客上位20社の時価総額は計約7兆4000億ドルに達する。さらに、台湾海峡は世界で最も船舶が行き交う海上輸送路の一つでもある。

危機コストのモデル化

  ブルームバーグ・エコノミクスは2つのシナリオをモデル化した。一つは、中国による侵攻で米国が局地的な戦争に巻き込まれること、もう一つは封鎖で台湾が世界との貿易から遮断されることだ。半導体供給への打撃や地域輸送の混乱、貿易制裁や関税、金融市場へのインパクトを考慮し、GDPへの影響を試算するために同モデルを用いた。

  当事国・地域や他の主要国、世界全体にとって最大の打撃は半導体不足となる。台湾のハイエンド半導体を必要とするノート型パソコンやタブレット、スマートフォンを生産する工場ラインはまひ状態となるだろう。自動車などのセクターへの影響も大きくなると考えられる。

  貿易障壁や金融市場の著しいリスクオフショックで、コストはさらに膨らむことになる。

Source: Bloomberg Economics

戦争のケース

  • 台湾経済は大きな損害を被る。比較可能な最近の戦争に基づき、ブルームバーグ・エコノミクスはGDPに40%程度の打撃が及ぶと試算。人口や産業が沿岸に集中すれば、人的・経済的コストはさらに増える
  • 中国は主要貿易相手国との関係を断たれ、先端半導体へのアクセスも失い、GDPは16.7%相当の打撃を受ける
  • 米国は地理的に離れているものの、アップルのアジア電子製品サプライチェーン依存など、なお多くのリスクを抱えており、GDPは6.7%下押しされる
  • 世界全体ではGDPが10.2%減少。日本や韓国など東アジア経済が最も大きな影響を受ける

Crowded Coast

Taiwan’s industrial, military and logistics sites

Source: Bloomberg Economics

  このシナリオでは、中国に対する協調した厳しい経済制裁に向け、米国が同盟国などの結束に成功することが主要前提となる。

  22年8月に当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問。これに対する中国側の反応は、他の主要7カ国(G7)に戦争リスクが現実にあることを再認識させる一助になったと米当局者は話す。ペロシ氏の訪台を受け、中国は封鎖に向けた予行練習とみられる大規模な海軍演習を実施した。

  米国務省の元対中国政策当局者で、現在はユーラシア・グループの中国担当マネジングディレクターを務めるリック・ウォーターズ氏は、「ペロシ氏訪台に対する中国のレトリックや人民解放軍の反応は、企業の緊急時対応計画やシナリオ立案の波を静かに引き起こした」と語る。

Model Estimates of Cost of War Over Taiwan

Impact on GDP in first year

Source: Bloomberg Economics

  ブルームバーグ・エコノミクスはまた、中国が1年にわたり台湾を封鎖した場合の世界経済への影響をモデル化した。

  • 貿易を通じて成長を遂げた台湾のGDPは1年目に12.2%減少
  • 中国と米国、世界全体にとっては、GDPが最初の年にそれぞれ8.9%、3.3%、5%減少することになる

  戦争シナリオと比べて影響が小さい理由は、世界経済がなお台湾の全ての半導体へのアクセスを失う一方、米国勢と中国の間の関税やアジアでの海運混乱、金融市場の影響などのショックは小さくなると想定されるためだ。

  今回の試算結果は各シナリオ前提によって大きく左右され、不確実性の範囲は広い。戦争あるいは封鎖がより短期間で、半導体供給や貿易の混乱が相対的に抑えられれば、影響もその分小さくなる。

台湾総統選が左右

  台湾総統選の結果が即座に危機の引き金になるわけではないとしても、両岸関係を方向性を決定付けることにはなるだろう。

TAIWAN-POLITICS-ELECTION

高雄で支持を訴える民主進歩党の総統候補、頼清徳氏(1月8日)

Photographer: Yasuyoshi Chiba/AFP/Getty Images

  現在の蔡英文政権で副総統を務め、与党・民主進歩党から出馬した頼清徳氏は中国との関係を乱すつもりはなく、継続を訴える候補として自身を打ち出そうとしている。

  だが、頼氏は過去に自らを「台湾独立の実務工作者」と表現したことがある。台湾を自国の領土の一部と見なす中国にとって、独立を正式に推進するなら、それは越えてはならない一線を越えることになる。習主席はバイデン大統領との会談で、頼氏が勝利する可能性に関して深い懸念を示したと、政権高官は明かす。

  一方、最大野党・国民党候補の侯友宜氏と野党第2党、台湾民衆党の柯文哲氏は対中関係の改善に向け実利的な措置を公約している。

TAIWAN-POLITICS-VOTE

新北市で遊説する国民党候補の侯友宜氏(1月5日)

Photographer: I-Hwa Cheng/AFP/Getty Images

  米当局者らは中国が軍事侵攻、経済制裁、サイバー攻撃を含むグレーゾーン戦術など、台湾総統選への反応を多面的に計画している可能性があると話す。

  今回の総統選に勝利した候補が新総統に就任するのは今年5月だ。それまでの期間は次期総統の取り囲みを狙った中国の行動を巡り危険な時期になると、米台の当局者らは指摘した。

緊迫した状況

  誰が勝っても、中台関係を巡り変化した困難な現実に対処しなければならない。

TAIWAN-POLITICS-ELECTION

高雄の選挙集会に姿を現した台湾民衆党の柯文哲氏(1月7日)

Photographer: Alastair Pike/AFP/Getty Images

  米国が台湾に代わって中国と外交関係を結んだ1979年に、米国のGDPは中国の10倍あった。また、中国軍は近代化の初期段階にあり、台湾はまだ一党支配下だった。

  現在では、中国経済が米国との差を大きく縮め、中国の軍事力も高まり、台湾の自由民主主義は中国の権威主義体制とは対極をなしている。

米中首脳の発言

  米中首脳の発言で摩擦が強まっている。

  習主席は台湾問題について、「世代から世代へと引き継ぐ」問題ではないと何度か述べてきた。軍の近代化に向けた取り組みに加え、この発言で習氏が任期中に台湾統一を実現したい考えなのではないかとの観測が広がり、米情報機関や軍当局者からは27年が危険な年になるとの見方も浮上する。

  米高官によると、習主席はバイデン大統領との会談で、中国軍が27年までに侵攻に向けた準備を整えることを目指しているとの見方に不満を示し、それは誤りだと述べたという。

Stress Level

Mainland China military incursions show cross-Strait temperature elevated

Source: Bloomberg Economics

  一方、バイデン大統領は、中国が台湾に侵攻した場合には台湾を支援すると表明してきた。こうした率直な態度は、米国の立場に関して慎重に築かれた曖昧さを損ねる一方、米国が独立支持の騒ぎを強めているとの怒りや懸念が中国で広がった。

  中国外務省が使用した警告の文言や中国軍による台湾の防空識別圏(ADIZ)への進入に基づくブルームバーグ・エコノミクスの台湾ストレス指数は、この1年半にわたり高止まりしていることを示している。

  投資家や企業はすでに最悪の事態に備えている。株式投資ファンドのカークランド・キャピタル会長で、アジアのテクノロジー企業の専門家でもあるカーク・ヤン氏は、台湾でのポジションが今ではゼロに近いと説明。地政学的な緊張で「投資縮小を加速させる動機が強まっている」と指摘する。

  著名投資家ウォーレン・バフェット氏も昨年1-3月、地政学リスクを理由にTSMCの持ち分を全て 売却した。

Greenfield Foreign Direct Investment in Electronics and Electrical Equipment

Source: UNCTAD

  企業や政府も対策を進めている。米国や日本、ドイツが半導体の供給源を多様化するために資金を投じる中で、工場や販路を一から構築するグリーンフィールド投資は22年にエレクトロニクス・電気機器分野で1810億ドルに急増。20年は480億ドルにとどまっていた。

  ブルームバーグ・エコノミクスによる今回の分析でプラス面があるとすれば、危機の推計コストが10兆ドルと、どの国や地域にとってもあまりに甚大なために、危機を回避する動機がその分強く働くという点であろう。

  現状維持は誰にとっても理想的な結果ではないかもしれないが、台湾や中国、米国にとって代替案はもっと悪い。このため、状況が変化したとしても、台湾の曖昧な自治が均衡を保つ結果であり続けるのかもしれない。

General Views of Taiwan's Offshore Outpost Kinmen Island

中国のアモイと向かい合う台湾・金門島に上陸対策として整備された障害物

Photographer: An Rong Xu/Bloomberg

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原題: A War Over Taiwan Is a $10 Trillion Risk to the Global Economy(抜粋)

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